太田

福井さんっ!

福井

はいっ、はいどうぞー太田リポーター。

太田

奥さんのほうにインタビューしたところ、緑のものも注文したほうがいいのではないか、と橋本に忠告しているそうです。

福井

なるほど、そう言えば、このところあまり野菜類を食べていなさそうですねぇ…それに、奥さんのほうはベジタリアン志向の方だと聞いておりますが・・・
それとも、だんなさんの身体を気づかっての忠告でしょうか、まあどっちにしろ、野菜類も食べておいたほうがいいことは確かです。

服部

しかしねー、ここは橋本の性格上、押し切って自分の食べたいものばかり注文するでしょう。何しろ、手持ちで使えるのは五百元までですからねー。

福井

おー、やはり、やはり注文したのは、小龍包、赤豆ナントカ、これは髪という字のかんむりの部分、いわゆるカミガシラですか、その下に松という文字があります。その次の文字は米へんに嘉義米羔の羔という文字です。
つまりずらずらーっと文字を並べますとぉ、赤豆髪松米羔ということになりますが、ややこしいので、赤豆ナントカということにしておきましょう。
そして、そしてー次に印をつけたのは、肉に糸が二つの炒めるご飯、いわゆるロースーソーハンですか、もしかしたらチャオファンというのかもしれませんが、その肉絲炒飯に、酸っぱくて辛い湯、サンラータン、文字にすると、酸辣湯、こうですね。以上四品それぞれに一と印しをつけました。
・・・服部さん、この赤豆ナントカというのは一体どういった料理なんでしょうか。

服部

えー、これは私も初めて見ますねー。察するにこの赤豆というのは多分、小豆のことだと思います。そしてですね、三文字目の髪の松ですがー、これはねー、スンと発音するんですよ。いわゆるデンブなんですよ。
よく見かけるのは、肉で作ったデンブで、肉という字の後にこのスンという文字がきてまして、ロースンというものなんですが、これは台湾の人たちが好んでよく食べる食材の一つなんですよ。このごろはね、パンの中なんかにも入っているんですよ。
そして四文字目、米に羔なんですが、これはガオと発音しまして、いわゆる蒸しものの意味があるんですよ。それとね、嘉義米羔の羔という文字ですけどね、あれはほんとはこのガオという文字のはずなんですけどねー。制作の人間が日本にはそういう文字がないから、手を抜いてるんじゃないんですかねえ。
まあそれはいいとして、つまり、これはデンブ入りのおこわのようなものではないかと、私は思います。値段も六十元と手頃ですからね。

30分経過

福井

なるほどー、さすがに教養のあるところを見せていただきましたが、この計算で行くと全部で四百六十元、と、いい線いっていますねー。
お、小姐の登場です・・・
おや、先ほどの赤豆ナントカのところに何か書き加えましたねー。おーとっ、一と書いてあるところに二と書き直しましたーっ。これはー、このまま行くと五百二十元になって制限金額を超えてしまいます。さあ、抗議するのでしょうかぁ。

服部

何もしませんね、見てください橋本の表情を、何やら余裕の表情にさえ見えますねぇ、大丈夫なんでしょうか。

福井

さあー、橋本に勝算はあるのでしょうかーっ?
まずー、運ばれてきたのはー、まずはスープ、酸辣湯です。一緒に針生姜も小皿に盛られて運ばれます・・・
奥さんによそってもらって、針生姜を落としてー、レンゲをひと口、口に運びました。にこにことほっぺたがゆるんでいます。出ましたー、この表情です。この表情を見たいというがために、橋本に料理を作ってあげたいという女性が最近急増しているらしい、あの百万ドルの笑顔であります。

服部

うらやましいですねえ、私もそんな身分になりたいですよ。

福井

さあー、次に運ばれてきたのはー、おー、やきめし、やきめしであります、それにしても服部さん、小龍包がなかなかきませんねえー。

服部

いやあ、あれは蒸すのに結構時間かかるんですよー、それにしてもここのやきめし、肉絲炒飯ですか、これー、これうまいんですよー。しつこくない味で、それでいてしっかりした味。日本ではなかなか味わえない味ですよね。いいなー、私も食いたくなってきましたよー。

福井

私も同感でありますが、そういう訳にもまいりません。

15分前

福井

さー、あと十五分というアナウンスが今入りましたが、おっと、ようやく蒸しものが出てまいりました。当然といえば当然、蒸篭に入っております。さあー今、その蒸篭の蓋が小姐によってー、えー、蓋が今とられましたー。
さー服部さん、これは三角形の形をしていますがー、何やらショートケーキを彷彿とさせますがー、これは小龍包というものではないようですねー。

服部

当然ですねー。おっしゃるように、あれはいわゆる肉まんの小さいようなものですから、消去法でいくと、これが例の赤豆ですね。これはどうやらデザートですね。小豆入りの蒸しパンといったところですかね。いやー、こういうものだとはわかりませんでしたねー、勉強になります。

福井

奥さんのほうは手をつけました。しかし、橋本はー、橋本は手をつけません。デザートと判断して、最後にとっておく作戦でしょうかーっ。
おっ、続けざまに蒸篭が運ばれてまいりましたーっ。やっとメインディッシュの登場です。小姐は先ほどの蒸篭の上に新しい蒸篭を重ねるようにおきました。奥さんは残った三分の二ほどの赤豆ナントカを、蒸篭に返しています。