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 一度は乗ってみたいと思っていたTW200。
 それを借りることができなかったとしたら…と思っていたら早く目が醒めた。
 めしも喰わずにバイク屋へ行く。まだ8時過ぎなので道行く人もまばらだし、ほとんどの店も開いていない。
 __閉まってるんちゃうか〜?
 思いつつも、とりあえず店の前までは行ってみた。
 きのう訊いたアンチャンとはあきらかに違う親父がポツンと座っている。店から少し離れている所に置いてあるのを指差して、
 「あのTWは借りられるかい?」
 「おおグラッチェグラッチェ、もちのろんじゃョ」
 親父はニカニカ笑って肩を叩いてきた。
 早速6000払い、バウチャーに名前を書こうとしたら、ホテルの名前を記憶していない。
 「あー、ホテルの名前がわかりまへん」
 英語で言ったつもりだけれど、双方の意志疎通は成功しなかったようで、
 「ドイツェ?イギリス?」
 と逆に質問してきた。
 「ヤポネ!」
 元気よく答える。
 「おー、ここにあるバイクはみんなヤポネース。わしじゃチトわからんけん、9時にもいっぺん来てくれろ。ほしたら息子どもが来とるから、それでオーケーじゃ。ノープロブレム」
 ということなので、とりあえず乗って帰ってもいっぺん来ることにした。ヘルメットも二つ借りてキック一発ブロロンと走り出すと、かなりのトルクがあり安定性も抜群、快調快調ルンルンルンと部屋に帰った。

ΨΨΨ

 ニコニコ顔でインスタントコーヒー用の湯を沸かしているとノックの音。なんじゃらほいとドアを開けてみましたらペンションのおばあちゃんガマ口持って立っている。
 「ΩΧνρθмljヾ々仝〓♀¶ΔΝνρπω¥$」
 んー、どうやらお金を払ってくれと言っているようなので、テに払いに行ってもらってる間にメシをすませ、さらにどうも落ち着かないので、9時には早いがバイク屋に行ってみた。
 昨日はいなかった息子2号が「コンバンワ」と挨拶を寄越してきた。
 チッチッチッ、朝はオハヨーなのだよと教えつつ、余裕たっぷりに宿の番地までバウチャーに書き込んでやった。
 どやこれ!と鼻をふくらませ差し出す。
 息子1号やってくる。
 「ティダブル?」
 言いつつ少し笑ったような気がした。
 「ソーリー、ザット バイク イズ リザベイション イエスタデー」
 なのだそうだ。ガーン、ガラガラガラ(岩の崩れる音)

ΨΨΨ

 気を取り直して廻りを見回すとXT200らしきバイクがある。
 まぁXTも乗り易いしこれにしますわ、セイムプライス?と訊くとイエスだそうなので、宿へTW回収に帰った。
 戻るとXTは店の前に出され暖気運転をしながら2号がレンチか何かでチェーンの調整をしていた。
 バウチャーを貰って1号に言ってやった。
 「日本ではこれの250に乗っていたのだよ」
 「ヤマハのファクトリーはどこにあるのか?トーキョー?オーサカ?」
 「シズオカー!」
 「ホンダは?」
 「シリマヘーン!」

 さて、いざ跨がって走り出すとエンジンがかなりトロくさい感じがする。もっとマズいことにハンドリングが妙だ。低速ではブレるし高速になると真直ぐ走らないので、こりゃ絶対事故車に違いないと三たび店へ引っ返した。

ΨΨΨ

 息子2号がFZらしきバイクでこちらにやって来るのに遭遇した。
 「サムシン ウロング?」
 「イエース、ハンドリングがヘンだー!」
 「ノープロブレム。チェンジ オーケー」
 おいおい、どこがノープロブレムじゃい。プロブレムだらけじゃんか!おまけにバイクを降りようとした時チラッと目に入った125という文字。125ccなら5000Δrのはずではなかったのか?何がセイムプライスや!?
 息子1号が少し試走してから「チェンジ オーケー」と言ってきた。当然である。DTでもAXでも好きなのを選べと言っている。
 「AXは250でパワーがあるよ。DTは125だけど2ストロークで新しいからパワーばりばりよ」
 そんなことは言われんでもわかっとる。
 「125だったら5000て昨日言うとったよね。それにこのXTは125なのに何で6000なん?」
 「これは4ストロークだから6000なんだよ。それにDTは5000じゃなくて5500なんだよ」
 なにいー!人をバカにするんもえーかげんにせいっ!と思ったけど、昨日聞いたのが聞き間違いだったかもしれんのうと、大きな顔した小心者のわたしは、500返してもらいDT125に跨がりキック3発パパパーンと走り去ったのであった。

ΨΨΨ

 2ストはあんまり好きじゃない、やっぱり4スト単気筒の野太い音が好きと云うのが今も変わらぬポリシーだが、さすがヤマハの代表選手、125とは思えない力強さで走ってくれる。なかなか頼もしい奴だわい。
 レティムノンの町外れのシェルで500Δr分スーパーを入れ、高速道路のように見える道を10kmばかり走ると、旧道はこちらという標識が現れたので、それに従う。田舎道の3つ4つの村を過ぎた頃、ほんまに道間違ってないんやろかと思いつつも、顔面に虫攻撃を受けつつ更に軽やかに走った。そう、地図も何もないのだ。標識のみが頼りだ。おっ出ました出ました『アノイア18km↑』の標識が。
 どんどん進むとやがて現れ出たる標識のない追分道。
 うーむどうする。

 まるでサスペンス劇場の尾行者に現れるタクシーのようなタイミングで、鉢巻きをしたおじさんがロバを引っぱって登場した。
 おじさんの前でバイクを止め、「アノイヤー?」と指さした。
 「ドイチェ?」
 やれやれ、また国籍尋問か。
 「ノー、ジャパーン」
 「オー、ヤポネヤポネー」
 ヤポネだと何かいいことでもあるのだろうか、おじさん大喜びで、この道でよいのじゃよと教えてくれた。
 「エファリストー!」
 「パラカロパラカロ」

ΨΨΨ

 おかげで無事にアノイアに到着し、軽くひと回りしてから、村の入り口の木陰でどんじゃらほい。ではなく、バイクを駐めた。
 商売熱心なのは女性、特におばさん以上で、男どもはカフェでトランプに興じている姿しか目に入らない。御婦人がたは、店らしき建物の前を通ると、どこからともなく、又は店の中から、もしくは寝ていてもムックリ起きて「ルック!、グッド!、ベリーナイス!」の攻撃(口撃)を繰り出してくるのだ。挙げ句の果てには、店ではない普通の民家にしか見えない家に招き入れられ「トゥータウダンド!(2000)」である。やれやれ。想像していた田舎の村とは恐ろしく懸け離れていた。鳴呼レモナッダソスのカラランボは何処にありしや。しかし、これが現実なのであります。

ΨΨΨ

エナ…
ご推察のとおり、1、ワン、ウノのことですな。

 さて、一日のうちで一番こころ踊らせる時、食事の時間である。
 どうせなら安くてうまいものをが信条のわたくしであるから、先程バイクでひと回りした時、善さそうな店がありそうだと私の嗅覚が囁いた、上の町に上ってみることに無理矢理談じ込んだ。
 タベルナではあまり飲み物を注文しない事前工作として、まずスーパーを探す。すぐに見つかる。これこれありましたありました、ツボルグクラブソーダ。レジのおっちゃんに持って行くと、今度は一発で「ヤポネ?」と見抜かれた。うんと頷くと「ブラボ」と言って紙に130と書いてくれた。漸くまともな反応だ。
 私の嗅覚も地に墜ちたのか、やっとのことで、それっぽいかなと思われる店で「タベルナ?」と手を口にパクパクしてみたら「カフェ」とつれないお返事。どうもすみません上には一軒もありませんでしたー。

 肩身狭く下に降りて来ると、何やら肉を焼いているらしい煙が漂っているではあ〜りませんか、順子さん。誘われて手繰って行くと、ハの字ヒゲを立派に蓄えた長靴を履いたおッさんが手招きをしている。
 ちょっと寂しそうな店構えだが、他に選択の余地はなさそうなので、ええいままよと暖簾をくぐった。
 「メニュー、カルト、カルタ」と手で長方形を描いてみたが、おッさんは「ラム、サラータ、パタート」の3語しか言わない。つまりこの3種類しかないのであろうと了解した。他の2つは判るが、パタートが判らん。ポテトのような雰囲気を醸し出しているが、おッさんは2種類焼いている肉の1つを指差してパタートとのたまい、もう一方をラムと説明しているようにしか見えない。ということは、ポークか?豚ちゃんなら大喜びだが、とんでもないものである可能性もある。ここは手堅く石橋を叩いとくか。
 「ラム、エナ、サラータ、エナ」
 協議の結果、そう注文して着席した。ミシュランを見てみると、ポテトのことはパタテスと書いてあるので、そのギリシャ文字を持って行って、この文字がパタートかと訊いてみたらパタートパタートと満足そうに頷くので、「ノーラム、パタートエナ、サラータエナ」と注文し直した。

ΨΨΨ

 しかし、言葉が通じなかったのか、わざとなのか、ラムは運ばれてしまった。供された時に「いりまへーん」と言えばよかったのに、悲しいかな、まーえーかと一口喰ってしまった。
 __げっ、肉くさい。
 どうやら、内臓のカタマリ大量節だ。どうにもこれは苦手な味、食感なのである。しかもサラダを食べている間に、ハエの塊と化してしまった。我が教義には反してしまうが、
 __これは残すしかあるまい。
 なんて思ってるうちにパタートが並べられた。
やはり正解はポテトで油まみれの熱々フライドポテトだった。
 __おッさん、恍けとんちゃうかー!
  結局、ポテトとサラダだけという、しょぼくれた昼食になってしまったが、おッさんも鬼ではなかった。お勘定の3000Δrを払うとグリークコーヒーをおごってくれた。まあ、これもカラランボの一種と云えなくもないか。
 写真を撮らせてくれというと、ニカリと笑っておッさんはポーズをつけた。

ΨΨΨ

 テの買いもん病につき合ってから、一路レティムノンに帰ってきた。それにしてもケツが痛い。9時までにはあと5時間もあるから、もうひとっ走りしたろうかいとも思っていたが、やはり往復120kmは疲れた。
 店に行くと親父はぽつねんと座り、独りたそがれていたが、DTを返すと、握手を求めてきた。旅情を感じるひとコマではあった。

ΨΨΨ

山手樹一郎の長篇の〆括りみたいだな……→

 今日は昼ごはんが高かったので、晩はお手軽に安くギロスピタにでもしようよと、きのう夕方行った店に行くと閉まっている。そこから30mくらいにある店で計3個をテイクアウトして喰ったらワースト2の味だった。ついてない日はとことんついとらんわい。おーし、口直しに名物ハニーヨーグルトでもいっちょう張りこんだろと涼みがてら、賑やかな地域に繰り出した。

 繁華街ど真ん中にあるカフェテリアに腰降ろし、注文した。
 その席からは制作行程がモロに見学できてしまった。
 夢も希望も打ち砕くその実態も見学できてしまった。
 スーパーで普通に売っているものとしか見えないヨーグルトパッケージの天井をナイフでバリリと開けドバっと器に流し込み、はちみつ垂らしてナッツぱらぱら。それだけ。どこがスペシャルじゃー!
 冷静に考えると、どこでもそんなもんだろうとは思うが、せめて見えない所で工作してほしいもんだ。
 早々に切り上げ、ブラブラすることに作戦変更。
 そこいらにいる人はみんな同じようで、ヒマそーにおしゃべりしたり、バックギャモンしたり。たいして美味くもないものを食べて、そのへんのものでお茶を濁す。そんなことでいーのか!みんなしっかりしろ!わしもしっかりしろ!
 半分より少しだけ欠けた月がしっかりと輝いている夜のことであった。

(c)1995-2005 HaoHao

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