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 はちみつとパンをネスウイズミルクで流し込んで朝食を済ませた。
 きのうのうちに見つけていた、白黒もスライドもできますと看板をあげている写真屋に向かった。
 看板に偽りは無くどちらもできるということであった。スライドに関しては、店の女が電話をして確認すると木曜日の午後になると言った。今日は火曜日だからその日はもうここにいないはずだ。残念だが断った。
 問題のハーフサイズの説明を試してみたが、全く通じなかった。店の女はたいそう美人だったが、写真に関する知識は豊富とは言えなかった。外で油を売っていたアラブの商人風のあるじを呼んできたが、同様であった。こちらも半分諦めかけたが、そこに居合わせた客が漸く理解をしてくれた。こうなるとトントン拍子で、それをギリシャ語に通訳して美人店員は理解を示し、笑いながら再び電話で確認をした。
 やはり不可能であるという答がかえってきた。オンリーデベロップメント1000Δrだけを注文して、ではアフター6にと店を出た。

ドアを開けたら荷車を押す少年が通っていった。

ΨΨΨ

 例によってフラフラしているとユースホステルを発見した。しかし、それほど魅力的な価値は見出せなかった。その辺り一帯にパンを焼くうまそうな匂いを感じたが、パン屋は発見できなかった。
 さらに駒を進めると、あのアテネのミッコネン形式の串焼きスブラキ屋を発見した。
 もしかしてここは…、と感じた。
 我慢ができなかった。
 暖簾をくぐった。
 1つだけ買った。
 しかしたいしてうまくなかった。
 フライドポテトが入っていることで、ボリューム感が出てつい嬉しくなり購買意欲をそそるのだが、いまひとつポテトが揚げ立てでないことが多く、もそもそ感が派生し食感を悪くしている。ここはキッパリ諦めてポテトは入れないほうが味はよくなるのではないか、というのがクレタ式ピタスブラキ発展の道に違ないと、その時橋本は思った。

ΨΨΨ

 郵便局を探していた。「地球の歩き方」に記してある場所にはなかった。かわりに大きなスーパーを見つけた。トマト、ピーマン、レモン、洗剤、ツボルグクラブソ−ダを買った。ソーダは一気に飲んだ。
 何か森のような緑色の場所が見えた。緑に目のない連れに促され、足を向けると郵便局がそこにあった。森と見えていたのは公園であった。前には大きな駐車場があり、どうやら以前はバスターミナルのようであった。その前にはバナナの出店があった。二人の親父が呑気そうに店番をしていた。2本100Δr買った。そのクレタンバナナを公園のベンチで1本ずつほおばった。ほんのりと甘くおいしかった。この公園には松の木がたくさんあって日本にいるような気分になった。それにしてもおにぎりを食べたいと思った。

ΨΨΨ

 問題はパンだった。
 きのうスーパーで買ったものは、うまいものとは言えなかった。ぜひともパン屋のパンを食べたいところだ。ありそうでなかなかないものだった。
 すると、いきなり見つかった。今晩と明朝の分250Δrを買い込んだ。意外と宿から近いところにあった。慣れてみるとけっこう狭い街なのかもしれなかった。
 連れが急に「わしハラへった」と言うので、きのう密かに目をつけていたスブラキ屋に橋本は直行した。ギロスピタ2ヶを買い戻ってくると約7分50秒しか経過していなかった。食べ物のこととなると、どうしてこうも迅速なのだろうと、手前味噌ながら惚れ惚れしてしまう橋本であった。

ΨΨΨ

 スーパーの紙袋で作った手製手紙を書き終えると6時になっていた。朝のカメラ屋に行くと美人の店員が表に立っていた。ハァ〜ロォ〜とにこやかに出迎えた。
 「ディス イズ オッケー」と言ってカラーフィルムのほうを差し出した。しかし「バット ディス イズ ノット オッケー」と白黒の方を指さして美人の店員は言った。
 おまけに「いつになったら出来上がるかわからないのよ、いつまでここにいるの?」と言った。せっかく「美人の」と形容詞をつけているのに、と思ったが、例によって反論をこなせるだけの言語を持ち合わせていない橋本は「えっ、えっとー、あさって」と言うの他はなかった。
 「じゃーちょっと無理かもしれないわねぇ」
 看板に偽り有りであった。やはり諦めるしかないのであった。

ΨΨΨ

TW200…
この約4年後、バイクを買う機会を得ることになるが、注文に向かった店先で見たバイクに急きょ心変わりしてしまった。私バカよね、おバカさんよね…
しかし直後にキムタク現象で大流行になったから、かえって良かったとヘンコツパワーを爆発させた。

 「プレゼント フォー ユー」なんぞと言われて貰ったアルバムを手に店を出た橋本はすぐ隣にレンタバイク屋があり、次に買うならこのバイクと決めていたヤマハTW200が置いてあるのに気がついた。訊いてみると1日6000、排気量は下がるが馬力はおそらくTWよりも大きいDT125で5000ということだった。
 予定では明日はアノイアという地域に行くことになっていた。もちろん、連れの希望であった。
 バス停でアノイア行きの時間を調べた。早朝5時半と昼の2時半の2本しかなかった。やはりこれはTWで行くべきなのだと橋本はほくそえんだ。

ΨΨΨ

 シャワーを済ませ、食べはじめた夕食はきのうよりも豪華だった。バター付きのパンはうまかった。説得は成功し、TWで行くことに決まった。健闘を祈るのであった。

(c)1995-2002 HaoHao

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