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 8時半ごろ起きて、パイ専門のおっちゃんの店で巨大チョコエクレア250Δrと、昨夜のタベルナの隣のスーパーでピーチジュース(チト高すぎる気配もあるが)を買って教会の前で喰った。
 フラフラしながらバスターミナルのほうへ行くと、この道50年という感じのおじさんのやっているチェス屋さんがあった。陳列棚を見ているとおじさん現れカリメーラ。べつにチェスに興味があるわけではないけれど、このまま立ち去るのもナンですので、いちおう入ってグルっと一周5mした。どうやらこのおじさんはチェス道ではエライ人のようだった。エファリストーと言うとィヤーサスと手をふっていた。

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 バスの時刻表を見てジョージアニィに遭遇して賑やかな通りを歩いた。親黒ネコ子灰ネコのいるジュータン屋の前でちょっとカマっぽいおっちゃんに声をかけられる。
 日本のどこに住んでるの?神戸の近所。近所の地名は?宝塚。タカラヅーカ?私達は日本に船で行きましたシモノセーキ、チバ、ナンタラ、ココロエタ!どうぞ中に入って見て下さい、全てアンティークです。はあ、そうですか、ありがとうと店を出るとポストカードをくれた。
 海沿いのタベルナの前を通るとにーちゃんに声をかけられる。
 日本では外国人は好かれますか?時と場合によりますな。ワターシは日本女性とケッコンしたいです。マダーム、胃が痛いのはお酒をちょっと飲めばスグ治りまーす!どうぞ入ってくださーい!はいさようなら。

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 昨日のファストフード屋に入って、スブラキ、グリークサラダ、コーラ、ペリエで1050Δr。なんか知らんけど安いぞ。おもて通りにあるスーパーで水とおかきを買った。パイ屋でソフトクリーム200を買って、反対側の遺跡を家が合体して建っている町並みをペロペロしながら見て帰る。

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安いものでも…
ホンダのモンキーが約20万円くらいはしていた。とすると、日本よりもチト高めかもしれない。

 突然であった──。
 昼間に見つけていたベジタブルスープがあるというタベルナで、ポークスブラキ、ポテトサラダ、トマトスープ、グリーンビーンズ、パン(熱々、お替わり1回)、ペリエ2本、楽隊つき3600Δrを食べて、味はまあまあうまかったけど、あいそがもひとつやなーと思いつつ出て、何でこんなとこに人がバンバンおるんやろと行ってみたそこは「Car & Moto」の見本市が古式床しい蔵のような建物でやっておるではないか、と釣られて入ると恐ろしいまでの熱気ムンムンでひとアセかいたが、ギリシャだから特に安いというものでもないと納得して出口を出ると、こんなところにも町があったのか…と思わせるような別の町がひっそりとそこにあった。
 「こんなの知らなかったね」
 「そら、知っとるわけないやん」
 「あ、何かあっちのほうに楽器屋さんがあるー!行こ行こ!」
 「え?う、うん」
 突然その店はあった。

ハッタリの…
ギリシャのみやげもん屋などでよく並んでいるポストカードのブランド(?)名。本当の読み方はわからんけど、勝手にそう呼んでいる。

 30mくらい手前になるとどうやらそこはカフェニオン生演奏つきの店であることが推測できた。
 「ハッタリのポストカードになっとった店ってこことちゃうん?」
 「そーかなぁ」
 と店の前までくると、クマゴローが出てきた。目をくしゃくしゃにして握手をされたかと思うとそのまま中に入れられた。
 けっこうな爺様たちがカルテットで座って演っている。クマゴローがわざわざイスと机を大袈裟に引っ張りだし、備え付けの長イスのほうに2人並んで座らされた。
 カルテットの内訳は、エリツィンみたいなおっさんとアラブの商人風がパイオリン、フツーのおじさん(徳ちゃん)がフツーのギター、立派なヒゲの小顔のおじさんがガットギターみたいなギター(楽器のことはよくわからないので、とりあえずガットギターということにしておく)の4人。
 我々はその演奏人と同じ列の3つ目のテーブル、扇風機の横に案内されたことになる。1つ目のテーブルには眼鏡の紳士が1人ファンタを飲んでいる。「フラペー」とクマゴローに言うと、アイスかホットかシュガーかミルクかと訊かれた。泡立てたレイコーだと認識していたが、フラペーというのはこの辺ではコーヒーのことなのかもしれない。
 味はまあまあだが2人で600Δr。ここも地元の人しかいないような店である。いい感じだ。これだからやめられない。ほんとはメシくったらハラぐあいもよろしくないので、早くアニィホテルに帰ろうと思っていたのだが、テのハナはたいしたもんだ。ギターとバイオリンが響いている。

ハニアの歌声喫茶の
間取図

A=演奏人席,B=我々の席,C=楽器を吊るしている,D=厨房,E=扇風機,F=長イス,G=入口

一番手前にいるのがアインシュタイン博士。飲んでいるのがビアアムステル。一番奥に立っているのが、クマゴロー。

ΨΨΨ

 我々にとっての1曲目が終ると、アラブの商人がどこかへ行き、ファンタの紳士が立ち上がり、奥にぶら下げているバイオリンを取ったかと思うとさりげなく演奏人席に座りキコキコやりだした。え?もしかしてこの辺にいる人はみんなミュージシァンなのか?いつの間にかアインシュタイン博士が2つ目のテーブルに座りビアアムステルをグラスに注ぎ、こちらをじろじろ見ている。テがィアーサスと言うとィアーサスと返してくれた。
 1曲1曲が長く時には唄入りの曲を、いやはやとんでもない所にきましたな、これあ収穫ですよなどと思いつつ聞いていると、アインシュタイン博士がこちらを向いてグラス片手に君の瞳に乾杯をするので、こちらも水のコップ片手に返礼した。
 「このいかにも芸術家然としたおっちゃんが実は何もできんかったりして」とか言ってるとクマゴローがくしゃくしゃの目でやってきて、ついテープを買わされてしまった。おまけにキーホルダーをつけてくれたが、ちっとも欲しいとは思えないシロモノだ。いい所を発見した!こりゃあおもろいぞーと激しくかつスリリングに興奮している血をちょっと冷まされた気がしたのだった。

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 何曲目かの曲のあいまに、アインシュタイン博士がグラスのビアアムステルをグビッと飲み干しどこかへ行ったと思っていると、次の曲が始まった。すると中央の通路に黒服マスターと死神博士と一緒にアインシュタイン博士もするすると出てきた。なんじゃ?と思っていると、急に静かにかつ緩やかに踊り始めた。恐れ入った!実はダンサーだったのだ!
 わざわざクマゴローがみんなを壁側に座らせる訳がわかった。博士コンビは終始緩やかにリズムをとり、若手の黒服マスターは時々、空中回転ウシロマワシ飛び靴の裏叩きでパパパンと音を奏でるという見事な技を披露してくれた。踊りが終るとアインシュタイン博士は君の瞳に乾杯を忘れない。

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 ファンタの紳士が演奏を終えィヤーサスと片手を挙げ上着を羽織りヒョーゼンと出ていった。カルテットからトリオになった。りっぱひげ、アラブの商人、徳ちゃんの3人。
 アインシュタイン博士はタバコをふかし終るとビールびんを振ってみて空なのを確かめると手を挙げてもう1本注文した。ビールが運ばれると向かいに座っているおばさん(ギリシャ語は喋っているようだがカンコー客らしい)の空のウゾ用のコップにも注いで乾杯をして、またもやこちらに君の瞳に乾杯をする。このおばさん3人組はトリオにウゾを1人2杯ずつおごっていた。なかなかやるのう。

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 アインシュタイン博士が突然再び立ち上がり、3人組おばさんの1人を連れ出した。テをも引きずりだそうとしたが、テは怖じ気づいて座ったままなので、2人で踊り始めた。黒服マスターが殆どの女性を引っ張り出し、クマゴローまでが調子にのってしゃしゃり出て、ついにテも担ぎだされみんなで手をつないで踊りだした。
 わしは写真を撮ろうとしているとクマゴローがカメラを持ってってしまい、テに向かってシャッターを押した(フラッシュなんかついてないので、たぶん切れてないと思うが)。けっこうしんどかったという踊りを終え、またまた乾杯ごっこをした。
 ハラのでかいおじさんが入ってきてクマゴローではないボーイさん(クリストファークロス似)にいきなりハラを叩かれている。次の曲でアラブの商人がハラおじさんと交替してバイオリンをひきつつ、その渋いノドを披露してくれた。

 名残りは惜しいけれど、アインシュタイン博士にィヤーサスと別れを告げ、トリオの人々に手を振り、クマゴローと握手をかわし店を出た。みんなイキイキとしてシヤワセそーである。これこそ生きているということなのだなぁと帰る道々おもってしまった。教会の鐘が12回鳴った。木からネコが落ちそうになりフニャーゴと鳴いた。

(c)1995-2002 HaoHao

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