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 8時半ちょっと過ぎにそこに行くと、すでにしてフランス人らしき人たちが2等席で食べ始めていた。なぜか今日も特等席に座ることができる。
 2杯目のコーヒーを入れてもらうときに「フェン イズ ザ チェックアウト タイム?」と訊くと「何時を希望しているのでござるか」と言ったようだ。「なるべく遅く」と答えると「12時でかまわない」という返事が返ってきた。
 2等席に座っていた4人のうち1人残ったおばさんが話しかけてきた。フランス語は話せるか?と言うので「アンプティプ」と答えてテの出番だ。神戸だと言うと、地震は恐かったでしょう、と言ってくれる。私はパリに住んでるけどギリシャ人で、ソルボンヌの教授なの。さっき出て行った内の2人はパリジャンとパリジェンヌで、まるまるバンカンスじゃないけど、ほとんどバカンスを利用してペロポネソスを廻っているのよ。今日はナフプリオに行くのよと言い残して「ボンボヤージュ」と去っていった。
 3杯目はいらないと言ったつもりだけど注いでくれるごきげんおじさんに、君もフランス語いけるのかい?と尊敬の眼差しで訊かれてしまった。「アンプティプティプティプティプティプティプ」であるのに。4杯目も注いでくれかねない勢いをお断り申し上げでエファリストーと部屋に帰る。

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 12時までゆっくりして荷物しょって部屋を出ると、フランスじーちゃんばっちゃん軍団が1秒前まで我々の部屋だったドアに注目をしているところだった。おしのけかきわけレセプションに行き、エーゴの話せるおばちゃんにパスポートを返してもらい6万きっかりを支払った。このおばちゃんはアイソは皆無だけど実はエライおばさんだったりして。もしかしたらごきげんおじさんのカミさんだったりして・・・とも思ってしまう。
 「ウッジュー キープ アウワ バゲジ アンティル ファイブオクロック?」とおそるおそる訪ねると、ふんふんそこ置いといてと言い捨ててサッサと出てった。

マルバシアホテル5号室をスケッチ

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 さて、昨夜キツかった晩めし(パンとフィラデルフィアチーズ)の残りを昼めしにしようと、我々の食卓を探す彷徨の旅に出る。なかなかよい日陰もなく結局、ヒミツの入り口と呼んでいる所にあるイスにこしかけ、お馬さんパカパカの行ったり来たりを眺めつつ食べた。
 身軽になってパチパチしまくりしていたら、オフロードライダーのドイツ人(?)らしきにーちゃんにカメラを渡され、どうやら自分を写してくれろと言っている。テを撮ったのと同じ場所でポーズを決めるのにシャッターを切るとカシャーンとよい音がした。
 さらにパチパチを続けていると、おばさんが下からやってくる。
 「あなたがたはどっちの道から来たの?どうやら道に迷ってしまったらしくて〜、出口はどちらかしら?」と訊いているような気がしたので、「こっちへ行くとビーチであっちへ行くとエクイットです」と教えてあげると「ダンケ」とのたまい上に進んだ。

ΨΨΨ

 しばらくテの土産もん見たい症候群につきあってから、最初に日に入ったお菓子屋カフェで音楽を聴きながら(停電のはずなのにここだけ動いている)フラペーを飲み、なんか白いお菓子をつまみつつ、これを書いている。
 向かいの土産もん屋のおねえさんが入ってきた。急に増えた客人のあしらいをするのかと思ったら、氷をわしづかみにして出ていった。モチツモタレツなのか、姉妹なのかもしれない。
 わいわいガヤガヤとガキんちょが通り、こっちをじっと見ている。
 「チャイナ?」
 首を振ると今度は「ジャパン?」
 うなずくと「オレはグリース」と言って走って行った。歯を矯正している女の子が笑っている。
 しばらくすると彼女も同じように訊いてきた。最後に「カラマタ グリース」と言って向こうに行った。向かいのおねえさんが「スクール」と説明してくれた。どうやらクレタ島のカラマタという所の小学生という寸法らしい。

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 再びガキんちょどもが帰ってきて、店のおばさんが店先でアイスを食べていたのが呼び水となってか、みんなこぞってバニーとか何とか言いながら買いだした。おばさん、かなりの頭脳派でございます。オレハグリース小僧は独りつかつかと奥まで行ったかと思うと、コップに一杯の水を飲ませてもらっている。みんなピーチクパーチク騒いで食べている。かなり大人っぽい娘がこれはアイスクリームというものよと説明しながら通り過ぎる。店の前に一列になって座っているので、エブリワン!と声をかけて写真を撮ろうとしたらワンサカ集まって、収まりきらなくなった。「入らんなー」と言うと、みんなが真似をする。あんまりうるさいからか、向かいのおねえがギリシャ語でまくしたてた。波のように去ったかと思ったらまた現れる。最後に女子グループが水を飲ませてもらいにきてチャオバーイと言って出ていった。急に静かになった。

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 3時間あまりねばったお菓子カフェをあとに、少し上のほうに行ってみると、けっこういい感じの場所があり、お誂え向きにテーブルとイスもセッティングされていたので、カリカリパンの残りを食べた。しばらく散策してホテルに戻る。5号室のドアにはカギが差されていた。レセプションのドアは閉まっている。ノックする把手があったのでカチカチしてみると中からネーと返事があった。
 おばさん二人組がいたが、エーゴおばさんは例によってどこかへ出てしまい、ギリシャ語おばさん一人になった。荷造りして、エファリストー、アディオと言ってみた。ギリシャ語で何か言っているけど、よーわからんのでバイバイと言ってドアをおしひろげ、外に出た。

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 ユラユラ少女にアディオ。お菓子カフェと土産もん屋のおねえにもアディオ。ごきげんおじさんにも言いたかったがとうとう会えなかった。ながーいストレートに出るとかなりの波しぶきが見える。船は揺れないだろか。今日も明日も3年後も、この人たちは同じなのだろうか。鳴呼我々よ、どこへ行く。向かいのカフェからはガンズアンドローゼズ。

(c)1995-2002 HaoHao

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